その悩み、ムダです。『自省録』要約|ローマ皇帝に学ぶ「心の盾」

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自己啓発・マインド
静かな賢者を探そう

 職場の心無い一言が、家に帰ってからもずっと頭から離れない——そんな夜を過ごしたことがある人は、少なくないと思います。今回ご紹介する『自省録』は、今から1800年以上も前、ローマ帝国のトップに立つ皇帝が、誰にも見せるつもりのないノートにひとりで書き綴った”本音”です。他人の評価や過去の後悔から自由になるヒントが、ページのあちこちに散らばっています。


皇帝なのに、なぜ弱音を書き続けたのか

 著者のマルクス・アウレリウスは、ローマ帝国の「五賢帝」と呼ばれる、とても賢く素晴らしい皇帝の最後のひとりです。「皇帝なら、悩みなんてなくて毎日パーティー三昧なんじゃないの?」と思うかもしれません。

 でも実は、彼の人生は想像以上に過酷でした。外国からの攻撃が絶えず、国内では伝染病が広がり多くの人が命を落とし、信頼していた部下が反乱を起こし、最愛の妻や子どもたちにも次々と先立たれています。そんな絶望的な状況のなか、彼はテントの中でひとり、蝋燭の灯りを頼りに、自分自身を奮い立たせる言葉をノートに書き続けました。それが『自省録』です。

 正直なところ、「皇帝」と聞くと自分とはかけ離れた世界の人だと思ってしまいますが、彼が悩んでいた中身——信頼していた人に裏切られる辛さや、大切な人を失う悲しみ——は、時代も立場も関係なく、誰の心にも覚えのあるものではないでしょうか。だからこそ1800年経った今でも、この本は読み継がれているのだと思います。


「変えられないこと」にエネルギーを使うのをやめてみる

『自省録』で繰り返し語られる、いちばん重要な考え方があります。それは「自分の力で変えられることと、変えられないことを、きっぱり分ける」ということです。

 たとえば、明日の遠足なのに雨が降りそうなとき、空に向かって怒っても雨は止みません。天気は自分の力ではどうにもならないからです。人生の悩みの多くも、実はこれと同じです。他人の言動、過去の失敗、これから起こるかもしれないこと、他人からの評価——これらはすべて「自分では変えられないこと」です。マルクスは、これらに一喜一憂するのは「時間のムダ」だとはっきり言い切っています。

では何に力を注げばいいのか。答えは「自分の心と行動」です。雨を止めることはできなくても、「お気に入りの傘をさしていこう」と考えることはできます。嫌なことを言う人の口を閉じさせることはできなくても、「その言葉を受け取らない」と決めることはできます。つまり、出来事そのものではなく、それにどう向き合うかだけが、いつも自分の手の中にあるのです。

ブドウの木に学ぶ、人間関係の疲れないコツ

 誰かに親切にしたのに「ありがとう」の一言もなく、モヤモヤした経験はないでしょうか。マルクスはここで、「見返りを求めるな。ただ与える人になりなさい」と語ります。彼が例えに使うのが、ブドウの木です。ブドウの木は美味しい実をつけますが、「お礼を言ってくれ」とは要求しません。実をつけることが、ブドウにとっての役割だからです。人も同じで、親切をした時点でその役目は果たされている、という考え方です。相手が感謝するかどうかは、相手自身の問題であり、自分にはコントロールできないことなのですから。

 意地悪なことを言ってくる相手についても、マルクスの視点はユニークです。「その人は、何が善で何が悪かを知らない、気の毒な人なんだ」というのです。熱にうなされた病人の暴言に本気で腹を立てる人はいません。それと同じように、意地悪な人を「魂の目が見えていない病人」だと捉えれば、怒りではなく「お大事に」という気持ちで受け流せる、というわけです。

「傷ついた」と決めているのは、実は自分自身

 ストア派の考え方の核心とも言えるのが、この一節です。「『私は傷つけられた』という思い込みを捨てなさい。そうすれば傷そのものも消える」。

たとえば誰かに心無い言葉を投げられたとき、それは本来ただの音の振動にすぎません。それを「ひどい、傷ついた」と意味づけしているのは、他でもない自分自身です。もし知らない外国語で悪口を言われても、意味がわからなければ心は動きません。傷をつくっているのは相手の言葉ではなく、それをどう受け止めるかという自分の側の判断なのです。

マルクスはさらにこう続けます。「エメラルドは、誰に褒められなくても美しい」。宝石は「きれいだ」と言われても「大したことない」と言われても、輝きそのものは変わりません。あなた自身の価値も同じで、他人の評価によって上がったり下がったりするものではない——そう考えると、少し肩の力が抜けるのではないでしょうか。

皇帝でさえ、朝は布団から出たくなかった

 マルクスが生きた時代は、いつ命を落とすかわからない時代でした。だからこそ彼は「時間」について深く考え続けました。私たちはつい過去を悔やんだり、遠い将来を不安に思ったりしますが、マルクスに言わせれば、それもまた時間のムダです。私たちに確かにあるのは「今この瞬間」だけだからです。

『自省録』には、意外なほど人間味のあるエピソードも残されています。朝、布団から出たくない気持ちになったとき、マルクスは自分自身にこう言い聞かせていたそうです。「起きろ。人間としての仕事をするために起きるんだ。小鳥やアリを見てみろ、みんな必死で働いているじゃないか」。

皇帝であっても、朝が辛いのは私たちと変わらなかったのだと思うと、なんだか少し親近感が湧いてきます。それでも彼は「これが人生最後の一日かもしれない」と考え、目の前のことに誠実に取り組み続けました。

この考え方のメリット・デメリット

内容
メリット他人の言葉や不運に振り回されにくくなり、心が穏やかに保てる。悩む時間が減り、行動する時間が増える。見返りを求めず、人に優しくなれる
デメリット感情を出さず淡々としているぶん、周囲から「冷たい人」に見られることがある。常に理性的であろうとすると、少し息苦しくなる場面もある

まとめ:人生は「考え方」ひとつで変わる

『自省録』から学べる、日々を少し軽くするための工夫を、4つにまとめました。

  • 分ける:悩みが出てきたら「これは自分で変えられることか?」と自分に聞いてみる。変えられないなら、それ以上悩まない
  • 受け取らない:嫌なことを言われても、「傷ついた」と決めつけず、「そういう音だったな」くらいに受け止める
  • 期待しない:親切はやりっぱなしでいい。ブドウの木のように、見返りを求めずただ与える
  • 今を生きる:過去や未来を憂うより、「今日できる正しいこと」に力を注ぐ

マルクス・アウレリウスは「人生は、その人の考え方が作る」と語っています。2000年近く前、孤独なテントの中でひとりの皇帝がたどり着いたこの考え方は、時代が変わった今も、私たちの心を軽くしてくれるように思います。嫌なことがあった日は、「これは天気みたいなもの。心までは濡らせない」と、心の中でつぶやいてみてはいかがでしょうか。


Q
2000年前の哲学書ですが、歴史や哲学の知識がなくても読めますか?
A

まったく問題ありません。本書は学術的な教科書ではなく、皇帝が自分自身を励ますために書いた「日記」です。難しい理論はほとんどなく、人間味あふれる等身大の悩みと、自分へのアドバイスで構成されています。

Q
昔の言葉遣いで読みづらくないか心配です。
A

読みやすい現代語訳や超訳が数多く出版されています。古典的な翻訳だけでなく、現代の言葉に近いニュアンスで訳されたものや、漫画版も人気です。書店で少しめくって、自分に合う一冊を探してみるのもおすすめです。

Q
Audible(聴く読書)で学ぶのには向いていますか?
A

はい、とても向いています。短い言葉の集まりで構成されているため、通勤時間や寝る前に少しずつ聞くだけでも、心が整っていく感覚を味わえます。

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