職場で言われた心ないひとこと。家に帰ってからも、ずっと頭からはなれない。そんな夜をすごしたこと、ありませんか。
じつは、その悩みを1800年以上も前に、まったく同じように抱えていた人がいます。しかもその人は、ローマ帝国のいちばんえらい人、皇帝(こうてい)でした。
今回紹介する『自省録(じせいろく)』は、その皇帝が誰にも見せるつもりのないノートに、ひとりで書きつづった本音です。だからこそ、かざらない言葉で「心の軽くし方」が書かれています。
さあ、2000年前の皇帝が見つけた「なやみを手ばなすコツ」をのぞいてみましょう。
この本ってどんな本?
| 本の名前 | 自省録(じせいろく) |
|---|---|
| 書いた人 | マルクス・アウレーリウス(ローマ皇帝/121年〜180年) |
| 訳した人 | 神谷美恵子(かみや みえこ) |
| 出版社 | 岩波文庫(改版 2007年) |
| どんな話? | ローマ皇帝が、自分をはげますために書いた日記。なやみの手ばなし方が書いてある |
| こんな人に | 人の言葉が気になってしまう人/考えすぎてつかれる人 |
この記事でわかること
- 皇帝なのに、なぜ弱音(よわね)を書いていたのか
- なやみを軽くする「分ける」という考え方
- ブドウの木に学ぶ、人づきあいのコツ
- 「傷ついた」と決めているのは、じつは自分だという話
- 実際に読んだ私が変えたこと(体験談)
1. 皇帝なのに、どうして弱音(よわね)を書いていたの?
想像とちがう、つらすぎる毎日
この本を書いたマルクス・アウレーリウスは、ローマ帝国の「五賢帝(ごけんてい)」と呼ばれる、りっぱな皇帝たちの最後のひとりです。
「皇帝なんだから、なやみなんてなくて毎日パーティーでしょ?」と思うかもしれません。でも、じっさいの毎日はまったくちがいました。
- 外国からの攻撃(こうげき)が、ずっと止まらない
- 国の中では伝染病(でんせんびょう)が広がり、たくさんの人が亡くなる
- 信じていた部下が、反乱(はんらん)を起こす
- 大切な妻や子どもたちにも、次々と先立たれる
そんな絶望的(ぜつぼうてき)な毎日のなか、彼は戦場のテントの中で、ろうそくの灯(あか)りをたよりに、自分をはげます言葉をノートに書きつづけました。それが『自省録』です。
なやみの中身は、今の私たちと同じ
「皇帝」と聞くと、自分とはまったくちがう世界の人に思えます。でも、彼がなやんでいた中身を見てください。
信じていた人に裏切られるつらさ。大切な人を失う悲しみ。
これは、時代も立場も関係なく、誰の心にも覚えのあるものではないでしょうか。だからこそ1800年たった今でも、この本は読みつがれているのです。

2. いちばん大事な考え方は「分ける」こと
雨におこっても、雨はやまない
『自省録』でくりかえし出てくる、いちばん大事な考え方があります。それは「自分の力で変えられることと、変えられないことを、きっぱり分ける」ということです。
たとえば、明日は楽しみにしていた遠足なのに、雨が降りそうだとします。空に向かって「降るな!」とおこっても、雨はやみません。天気は、自分の力ではどうにもならないからです。
じつは、人生のなやみの多くも、これと同じなのです。
- ほかの人の言うことや、すること
- すぎてしまった失敗
- これから起きるかもしれないこと
- ほかの人からの評価(ひょうか)
これらは全部「自分では変えられないこと」です。マルクスは、こういうことで一喜一憂(いっきいちゆう)するのは「時間のムダ」だと、はっきり言いきっています。
では、何なら変えられるの?
答えは、「自分の心と行動」だけです。
雨をやませることはできません。でも「お気に入りのかさをさしていこう」と考えることはできます。
いやなことを言う人の口を、ふさぐことはできません。でも「その言葉を受け取らない」と決めることはできます。
つまり、起きたことそのものではなく、それにどう向き合うかだけが、いつも自分の手の中にあるのです。
3. ブドウの木に学ぶ、人づきあいのコツ
「ありがとう」をもらえなくてもいい
誰かに親切にしたのに「ありがとう」の一言もなくて、モヤモヤしたことはありませんか。
マルクスはここで、「見返り(みかえり)を求めるな。ただ与える人になりなさい」と言います。
そのたとえに使うのが、ブドウの木です。
ブドウの木は、おいしい実をつけます。でも「お礼を言ってくれ」とは言いません。実をつけることが、ブドウにとっての役目だからです。
人も同じで、親切をした時点で、その役目は果たされているという考え方です。相手が感謝するかどうかは相手の問題で、自分にはどうにもできないことなのですから。
意地悪を言う人は「心のびょうき」
意地悪なことを言ってくる相手についても、マルクスの見方はユニークです。
「その人は、何が良くて何が悪いかを知らない、気の毒な人なんだ」
高い熱を出してうなされている病人が、うわごとで暴言(ぼうげん)を言ったとします。それに本気でおこる人はいませんよね。
それと同じように、意地悪な人を「心の目が見えていない病人」だと考えれば、おこるのではなく「お大事に」という気持ちで受けながせる、というわけです。
4. 「傷ついた」と決めているのは、じつは自分
知らない外国語で悪口を言われたら?
この本の考え方の中心とも言えるのが、この一節です。
「『私は傷つけられた』という思いこみを捨てなさい。そうすれば、傷そのものも消える」
誰かに心ない言葉を投げられたとき、それはもともと、ただの音のふるえにすぎません。それを「ひどい、傷ついた」と意味づけしているのは、ほかでもない自分自身です。
考えてみてください。もしまったく知らない外国語で悪口を言われても、意味がわからなければ心は動きませんよね。
傷をつくっているのは相手の言葉ではなく、それをどう受け止めるかという、自分の側の判断(はんだん)なのです。
エメラルドは、ほめられなくても美しい
マルクスは、さらにこう続けます。
「エメラルドは、誰にほめられなくても美しい」
宝石は「きれいだ」と言われても、「大したことないね」と言われても、そのかがやきは変わりません。
あなた自身の価値も同じです。ほかの人の評価で、上がったり下がったりするものではない。そう考えると、少し肩の力がぬけるのではないでしょうか。
5. 皇帝だって、朝は布団から出たくなかった
たしかにあるのは「今」だけ
マルクスが生きたのは、いつ命を落とすかわからない時代でした。だからこそ彼は「時間」について、ずっと考えつづけました。
私たちはつい、すぎたことをくやんだり、遠い先のことを不安に思ったりします。でもマルクスに言わせれば、それも時間のムダです。
私たちにたしかにあるのは「今この瞬間(しゅんかん)」だけだからです。
皇帝の、かわいい朝のひとりごと
『自省録』には、意外なほど人間らしいエピソードも残っています。
朝、布団から出たくない気持ちになったとき、マルクスは自分にこう言い聞かせていたそうです。
「起きろ。人間としての仕事をするために起きるんだ。小鳥やアリを見てみろ、みんな必死で働いているじゃないか」
皇帝でも、朝がつらいのは私たちと同じだったのだと思うと、なんだか親しみがわいてきますね。
それでも彼は「これが人生最後の一日かもしれない」と考えて、目の前のことにまじめに取りくみつづけました。

6. この考え方のメリット・デメリット
| 内容 | |
|---|---|
| メリット | ほかの人の言葉や、運の悪いできごとに振りまわされにくくなります。なやむ時間が減って、行動する時間が増えます。見返りを求めずに、人にやさしくなれます |
| デメリット | 感情を出さずに淡々(たんたん)としているぶん、まわりから「冷たい人」に見られることがあります。いつも理性的でいようとすると、少し息苦しくなる場面もあります |
7.【体験談】この本を読んで、私が変えたこと
ここからは、実際にこの本を読んだ私の話をさせてください。
皇帝の「本音」が読みたくて手に取りました
この本を読もうと思ったきっかけは、シンプルです。
ローマ皇帝マルクスが、自分の心をふり返るときにどんな言葉を使っていたのか。それが知りたかったのです。
人に見せるための文章ではなく、自分だけのために書いた言葉です。かざりのない本音がどんなものなのか、興味がありました。
一番よかったのは「分ける」という考え方
読んでいていちばん良いと思ったのは、記事の2番で紹介した「自分の力で変えられることと、変えられないことを、きっぱり分ける」という考え方でした。
これは、言いかえると捨てる勇気のことだと思います。
捨てる勇気がないと、あれもこれもと抱えこんでしまい、人生の足取りがどんどん重くなっていきます。だからこの考え方は、とても大事だと感じました。
ブドウの木の話は、正直むずかしいと思いました
いっぽうで、素直にうなずけなかったところもあります。3番で紹介した「ブドウの木」の話です。
見返りを求めずに与える。意地悪な人は心の病人だと思えばいい。
言っていることは分かります。でも私には、これが相手の考えを勝手に想像して、自分の都合の良いように解釈しているようにも聞こえました。
そして何より、実際にその心もちになるのは、かなりむずかしいと思います。頭で分かることと、その場でそう思えることは別ものです。
ここは、読んですぐできるようになる話ではないのだろうな、というのが正直な感想です。
読んだあとに始めたこと:むりに動かない
この本を読んで、実際に変えたことがあります。
自分が影響(えいきょう)をあたえられるところと、あたえられないところを、まず見きわめるようにしました。 そして、あたえられないところには、むりに動かないと決めました。
やってみて、思いがけない変化がありました。
これまでムダに動いていたことや、ぐるぐる考えていたことがなくなって、つかれにくくなったのです。
手を出すのをやめただけなのに、残った時間と体力が、本当に必要なことに回せるようになりました。
この本をおすすめしたい人
私がこの本を読んでほしいのは、すべての人です。
ひとりの人が浮かせられる時間は、そんなに多くないかもしれません。でも、たくさんの人の時間が少しずつ浮けば、合わせるととても大きな時間になります。
その時間を、みんながもっと意味のあることに使えるようになったら。そう考えると、この本が広まることには、それだけの価値があると思うのです。
8. まとめ:人生は「考え方」ひとつで変わる
『自省録』から学べる、毎日を少し軽くするための工夫を4つにまとめました。
- 分ける:なやみが出てきたら「これは自分で変えられること?」と自分に聞いてみる。変えられないなら、それ以上なやまない
- 受け取らない:いやなことを言われても「傷ついた」と決めつけず、「そういう音だったな」くらいに受け止める
- 期待しない:親切はやりっぱなしでいい。ブドウの木のように、見返りを求めずただ与える
- 今を生きる:すぎたことや先のことをうれうより、「今日できる正しいこと」に力を注ぐ
マルクス・アウレーリウスは「人生は、その人の考え方がつくる」と言っています。
2000年近く前、たったひとりテントの中でたどりついたこの考え方は、時代が変わった今も、私たちの心を軽くしてくれます。
いやなことがあった日は、「これは天気みたいなもの。心までは濡(ぬ)らせない」と、心の中でつぶやいてみてはいかがでしょうか。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。あなたの毎日が、少しでも軽くなりますように。
- Q2000年前の哲学書ですが、歴史や哲学の知識がなくても読めますか?
- A
まったく問題ありません。本書は学術的な教科書ではなく、皇帝が自分自身を励ますために書いた「日記」です。難しい理論はほとんどなく、人間味あふれる等身大の悩みと、自分へのアドバイスで構成されています。
- Q昔の言葉遣いで読みづらくないか心配です。
- A
読みやすい現代語訳や超訳が数多く出版されています。古典的な翻訳だけでなく、現代の言葉に近いニュアンスで訳されたものや、漫画版も人気です。書店で少しめくって、自分に合う一冊を探してみるのもおすすめです。
- QAudible(聴く読書)で学ぶのには向いていますか?
- A
はい、とても向いています。短い言葉の集まりで構成されているため、通勤時間や寝る前に少しずつ聞くだけでも、心が整っていく感覚を味わえます。


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